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  2. 私福の一杯。

半世紀にわたって愛される
鹿児島っ子の味。
ラーメンに特化する
ブレない姿勢にグッとくる。

昔ながらのレトロなフォントで堂々とラーメン専門と謳われた看板が好きだ。
初対面の瞬間から今日に至るまで、訪れる度にその気持ちが増していく。
なんだか不思議な安心感を覚えるのだ。
ぼくは「ラーメン専門 鷹(たか)」が佇むこの街の光景がつくづく好きなんだなと思う。

鹿児島のラーメン店にはいくつか老舗と呼ばれる店があるが、その一つが「鷹」だ。
創業から半世紀を超え、2019年現在、55年の歴史を誇る。
現在は二代目が親子三人で店を切り盛り。
「鷹」というなんとも強そうな屋号だが、入ってみれば、その対極とも言えるアットホームな空気が流れていて、そのギャップが気に入っている。
聞けば「鷹」という屋号は先代・タカ子さんの名前に由来するそう。
やっぱりアットホームな店だ。

ぼくは密かに、この店の造りにも惹かれている。
厨房内には角丸が目を引く可愛らしい什器があり、黒いタイルが粋だ。
店内のど真ん中にどっしりと鎮座するカウンターもいい。
聞けばコンクリート製で、赤い天板を定期的に貼り直しながら使い続けているのだという。
5年、10年で商売を終えるつもりはない。
そんな声がカウンターから聞こえてきそうだ。
そのカウンターの対面には小上がりがあり、家族団欒のための場としてすっかり定着している。
「55年も店を続けていると、三代で来ていただいているお客さんもいるんです。
簡単には辞められないなあ」と店主はやさしく笑った。

こうして生まれた店内の光景は、長年にわたって通う人たちにとってかけがえのない存在であり、暖簾をくぐれば、思わず「ただいま」と言いたくなる。
こういう“実家”を持つ鹿児島っ子がたまらなく羨ましい。

品書きは、らーめん(750円)を筆頭に、特大(950円)、ごはん(100円)、辛子高菜という極めてシンプルな構成になっている。
焼飯や餃子といったサイドメニューは置かない。
「らーめん以外に作ると店が回せないんです。らーめんだけでも手一杯ですよ」と言う店主。
ラーメン店の数も増え、一つの店で豚骨、塩、醤油、味噌といったように幅広い味が楽しめるようになった今日において、一つを突き詰めるという在り方は尊くも眩しい。

半世紀にわたって磨き抜かれてきたらーめん。
注文が入ると、店主は元ダレ(ラーメンのタレ)を丼に用意した。
一般的なラーメン店なら先に丼に出汁を注ぎ、元ダレと合わせてスープにし、そこに茹でた麺を入れるが、「鷹」は違う。
元ダレが入った丼にスープではなく茹でた麺を入れて、混ぜる。
そこに熱々の出汁を注いでラーメンが完成するのだ。

麺にタレが染みているからだろうか。スープと麺との一体感がすごい。
漢字二文字で表現するなら、まさに密着。細めのストレート麺なのに、見た目以上に太くも感じるのは、麺にスープの旨味がしっかりとのっているからなんだろう。
麺は130gくらいで、ちょうどよい塩梅で満腹感が得られる。

スープにも一工夫あり。
豚骨と鶏ガラベースのスープは珍しくないが、そこに粉末状にしたシイタケも入れる。
「シイタケは豚骨と鶏ガラの臭みを取るのが目的なんです」と店主は教えてくれたが、出汁そのものに奥行きが出ていて、「鷹」ならではの味の構築に一役も二役も買っている。

チャーシューは赤身と脂身がバランス良く、味付けはしっかりめ。
やさしいスープに対して、このチャーシューを合わせるセンスに脱帽。

食べ終えると、しみじみ、お腹の奥があったかくなる一杯だった。

山田祐一郎 やまだ ゆういちろう

福岡県・宗像市出身。日本で唯一(※本人調べ)の
ヌードルライターとして活躍中。実家は製麺工房で、
これまでに食した麺との縁は数知れず。
九州を中心に、各地の麺を食べ歩き原稿を執筆。
モットーは”1日1麺”。著書に『うどんのはなし 福岡』、
『ヌードルライター秘蔵の一杯 福岡』。
http://ii-kiji.com