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奄美島豚への思いを
らーめんで表現
他では食べられない
希少な島豚骨らーめん。

「奄美島豚ラーメン 夢一屋」開業の背景には
店主・前野泰弘さんが抱く 2 つの思いがあった。
一つは幼少期から抱き続けてきた前野さん自身のラーメン愛だ。
どんなに食べても飽きるどころか、
より一層、ラーメンに惹かれていく前野さんは、
そのうち、ただ食べるだけでは物足りなくなり、
インスタントラーメンを麺とスープ、
それぞれを味わってみようと考え、つけ麺にして食べてみるなど、
実験まがいのことまで楽しむようになったという。
この店を開業するにあたっても、
ラーメンは独学で完成させた。
その味を今日に至るまでブラッシュアップさせながら育んでいる。

もう一つが「幻の島豚」と言われる「奄美島豚」を支えたいという思いだ。
この奄美島豚こそ、現在、広く知られている鹿児島の黒豚におけるルーツである。
元々、中国と交流があった奄美大島では在来豚が飼育され、
島民たちの間で親しまれていたが、
その後の高度成長期の中で飼育が下火となり、
昭和の中頃にはその血が途絶えてしまったと考えられていた。

「実は奄美の島豚が埼玉で生き延びていたことが分かり、
奄美での島豚の復活を願う人物が現れたんです。
蘇った島豚を、その味とともに背景、歴史を伝えていきたい。
そんな思いが湧き起こりました。
私にできることはラーメンづくり。
この島豚をラーメンに使いたいと考えたんです」

奄美島豚は肉質が細かく、良質の脂が付くことで知られる。
「その骨においてもコクと旨味が段違いです。
血抜きなどの下処理に手間暇をかけ、
独自の乾燥方法を取り入れるなどして、
そのポテンシャルを最大限に発揮できるように工夫しました」と
前野さんは教えてくれた。

鹿児島が誇る枕崎のカツオ節を土台とした魚介系の出汁、
そこに鶏ガラを煮出した出汁を合わせ、
最後に島豚の骨から旨味を抽出した出汁を重ねる。
こうして 3 つの出汁を織り交ぜ、
完成させた三層仕立てのスープこそ、
夢一屋の味だ。

麺にも手は抜かない。
「スープ屋になるな、ラーメン屋になれ。
この言葉こそ、私の原点です。
スープだけではなく、
麺まで納得がいくものを作ってこそ、
ラーメン屋だと思っています」と前野さんは言葉に力を込めた。

麺は小麦粉 3 種を独自の比率でブレンドし、
天然かんすい、塩、卵で打った自家製だ。
小麦粉は国産 100%。
麺における水分量が 38~40%という多加水麺で、
中細で仕上げている。
この基本の麺のほか、竹炭を練り込んだ黒い麺も用意する。
この自慢の麺を堪能するなら、ぜひ替玉を。
1 玉もしくは半玉が選べ、
いずれも 50 円という太っ腹な価格で楽しめる。

ラーメンは基本の「夢らーめん」のほか、
削り節状にした島豚の肉でとった出汁を合わせた「黒ぶしらーめん」、
味噌仕立ての「こくみそらーめん」など、バラエティ豊か。
中でも前野さんのイチオシが「辛口シンカ麺」。
こくみそをベースに、辛味を添えた一杯だ。
単純なピリ辛ではない。
スープに凝縮した旨味に加え、
辛さという刺激ではなく、
旨味としての辛みが口の中で広がる。
スープが美味いと、麺も進む。
これほど替玉の存在をありがたいと思ったことはない。

山田祐一郎 やまだ ゆういちろう

福岡県・宗像市出身。日本で唯一(※本人調べ)の
ヌードルライターとして活躍中。実家は製麺工房で、
これまでに食した麺との縁は数知れず。
九州を中心に、各地の麺を食べ歩き原稿を執筆。
モットーは”1日1麺”。著書に『うどんのはなし 福岡』、
『ヌードルライター秘蔵の一杯 福岡』。
http://ii-kiji.com