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- 私福の一杯。
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丼の表面を覆う
圧巻のチャーシュー。
シンプルという土台に
気前の良さを重ねる
40 歳を越えてくると、
老舗の閉店というニュースを耳にすることも増えてきた。
せっかく長きにわたって愛され続けてきた
老舗がなくなってしまうということは、
本当に言葉にできないくらいの喪失感で、
その店の常連であればその気持ちの落ち込み様は大変なものだ。
しばらく立ち直れなくなる。
だから老舗の暖簾を守り、
店を続けてくれるという行為に対しては
全面的に応援のスタンスをとる。
「ラーメン専門 まる竹ほんき」の店主は
鹿児島市内でかつて営業していた
「ほんきラーメン」の味に惚れ込み、
10 年以上通い、
そしてその歴史を途絶えさせたくないという
思いから味を受け継ぎ、
暖簾を守っているのだという。
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そんなエピソードを事前に聞いて食べに行ったということもあり、
それほど強烈に人の心を掴むラーメンなのだから、
パンチがあって、インパクトの強い一杯なのだと思い込んでいた。
ところが、初めてご対面した「まる竹ほんき」のラーメンは
そんな思い込みの対極にあるかのような、
実にシンプルな佇まい。
じんわりと、静かに体に滲み入るようだった。
完全にやられた。
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まず驚いたのがスープ。
九州だから白濁かなと勝手に思っていたら、
透き通ったタイプ。
ほんのりと金色を帯びていて、
その美しさに見惚れる。
実は鶏ガラではなく、
豚骨でとったスープだと聞いて驚いた。
金色は鹿児島産の醤油を使った元ダレがもたらしたもので、
福岡出身の僕からしたら甘めに感じる醤油の味わいがたまらない。
脂っ気はあるが、くどさはなく、すいすいと入る。
中細ストレートの麺は自家製で、
提供前に少しだけ手もみしているのだろうか、
少しウェーブがかっていて、
そのテクスチャーが食感のフックになっていた。通常のラーメンでもチャーシューは4 枚乗っていて、
見た目にも豪華に見えて、テンションがあがる。
この基本の一杯を存分に楽しんだ後、
なるほど、
あれこれ足し算を重ねたような派手さはないが、
これは確かに定期的に食べたくなる味だと思った。
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そんな初対面から月日が過ぎ、
ある時、取材で「ラーメン専門 マルタケほんき」を訪れる機会をもらった。
店主のおすすめのラーメンを写真に撮って紹介することになったので、
メニューのセレクトは店主にお任せする。
ぼくはてっきり店主が基本のラーメンを
推してくるのだろうと思っていたのだが、
「これでお願いします」と差し出されたのは
「チャーシューメン」だった。
二つの意味で驚いた。
まずは基本のラーメンではなく、
チャーシューメンのほうがおすすめだという事実。
もう一つは、
目の前に置かれた一杯の迫力あるビジュアルだ。
丼の中にチャーシューしか入っていないのではないか思わせるくらいに、
一面にびっしりとチャーシューが敷き詰めてあるではないか。
値段を聞いて驚愕。
ラーメンとの差はわずか100 円なのだ。
100 円でこんなにチャーシューを乗せて
経営的に大丈夫なんだろうかと
心配してしまうほどの気前の良さだ。
いつもラーメンを食べている感覚で、
普通に麺とチャーシューをバランスよく食べていたが、
チャーシューが余った。
それくらい、多い。
店主は「喜んでもらえるのが一番ですから」と
さらりとその経緯を教えてくれたが、
なかなかできるものではない。
改めてこの店のことが好きになった。
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その後、またこの店を訪れた。
その際、ぼくは基本のラーメンに目を呉れることなく、
チャーシューメン一択。
そしてご飯も一緒に注文した。
実はこの店で使っているお米は店主の実家で栽培しているそうで、
近年では店主自ら収穫しているのだという。
そんなバックグラウンドまで含めて、
ここのチャーシューメンとご飯の組み合わせは最高だ。
たぶん、ぼくはもう普通のラーメンでは
満足できない体になっていると思う。
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山田祐一郎 やまだ ゆういちろう
福岡県・宗像市出身。日本で唯一(※本人調べ)の
ヌードルライターとして活躍中。実家は製麺工房で、
これまでに食した麺との縁は数知れず。
九州を中心に、各地の麺を食べ歩き原稿を執筆。
モットーは”1日1麺”。著書に『うどんのはなし 福岡』、
『ヌードルライター秘蔵の一杯 福岡』。
http://ii-kiji.com