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  2. 私福の一杯。

ラーメン店であり、
焼肉店でもある。
妥協なしの両輪が
店に個性を注ぎ込む

ラーメン店と焼肉店。
一つひとつを見ると、
日本全国に馴染んでいるごく一般的な飲食店だ。
ただ、一つの店でラーメンと焼肉を専門店として提供するとなると、
話は変わる。
ここ「麺 味どころ 夢源」はラーメンと焼肉を提供する、
鹿児島でも珍しい店だ。

店主の溝辺さんは元々サラリーマンで、
食肉関係の仕事に就いていた。
脱サラしてこの店を始めたのが 2011 年だ。

目の前には大繁盛店の「ラーメン処 力」という実力店がある。
そんな立地が、この稀有なスタイルを生み出した。

「ここで店を始めることはすでに決まっていたんです。
だから普通のやり方ではこの地域で生き残れないと考えました」
という溝辺さん。
その結果生まれたのが、
ラーメンと焼肉の組み合わせ。
焼肉については自身の経験が生かせるということで自信はあった。
これに何を組み合わせるべきかと考えた際、
閃いたのがラーメンだった。
広く日本中で親しまれている焼肉とラーメン、
その両方に全力で取り組むことを自らに課した。

ラーメンづくりは独学だ。
元々、ラーメンの食べ歩きが好きで、
それまでにいろいろと食べて回ってきたというが、
ラーメン店での経験はゼロ。
そのため、開業した後も店を営みながら、
日々、お客の反応や意見を聞きつつ改良を重ねたのだという。
「かなり苦労しましたよ。
初めの 3 年くらいは全然うまくいかなかったですね」と振り返る。
ただ、3 年が過ぎた頃から味が固まっていき、
リピーターが増え出した。
そして改良、改善の積み重ねが、今をつくった。

メニューは実に多彩だ。
48 時間かけてとった豚骨出汁 100%のスープが自慢の
「とんこつラーメン」を軸に、
ニンニクでアレンジした「スタミナラーメン」、
味噌をブレンドした「みそラーメン」、
ネギをたっぷり盛り付けた「ねぎラーメン」と、
幅広い品揃え。
これにチャーハンはチャーシュー丼といったご飯もの、
唐揚げなどのサイドメニューが脇を固める。
「伊佐は人口が少ない町。
だから 1 品で勝負するのはリスキーだと考えました。
焼肉もありますが、
ラーメン屋として魅力あるラインナップが必要だと思ったんです」と、
品数を増やした理由を教えてくれた。
実はさらに鶏ガラスープ 100% の新メニューとして
「柚醤油ラーメン」を投入する予定もあるそうだ。

溝辺さんのイチオシは「黒むげん」という黒ゴマ仕立ての担々麺。
一般的な担々麺では普通のゴマをペーストにした芝麻醤を使うが、
この一杯はそれを黒ゴマにアレンジしたペーストを用いる。
調味にはラー油のほか、豆板醤、甜麺醤を合わせ、
辛さだけでなく甘み、コクを添えて味わいに奥行きを出す。
この黒ごま担々麺のスープは、
豚骨 6 に対して鶏ガラ 4 の塩梅で合わせた出汁がベースにある。
「最終的にピリ辛にアレンジしていますが、
出汁はしっかりとっています。
そこを疎かにすると、塩気が余計に必要です。
出汁がしっかりとれていれば、塩分はかなり抑えられます」

中太角ストレートの麺はわざわざ東京から取り寄せている。
「これでないと理想の味にならない。
絶対に変えられない」と溝辺さんが惚れ込んだ麺は、
表面にハリがあり、しこしこ感が秀逸だ。

「メニューはいろいろとありますが、
どれもしっかり個性が伝わるように意識しています。
黒ごまだったら、黒ごまそのものの味が伝わるように
惜しみなく使うが良いと思っています。
その甲斐あって、それぞれのラーメンに熱心なファンがいるのだと思います。
メニューを絞ることはできませんね。
ファンのことを考えると一つとしてやめられない。
私が店に立つ限り、メニューは増え続けるでしょうね」

炭火焼で楽しむ焼肉 (3 日前までに要予約 ) は
1700 円から揃うコースが狙い目。
コースは 3 種あり、いずれも黒毛和牛のカルビが付く。
また、マスターのおまかせコース (2500 円~) も人気が高い。

ラーメン店であり、焼肉店でもある。
店主の本気がひしひしと伝わった。

山田祐一郎 やまだ ゆういちろう

福岡県・宗像市出身。日本で唯一(※本人調べ)の
ヌードルライターとして活躍中。実家は製麺工房で、
これまでに食した麺との縁は数知れず。
九州を中心に、各地の麺を食べ歩き原稿を執筆。
モットーは”1日1麺”。著書に『うどんのはなし 福岡』、
『ヌードルライター秘蔵の一杯 福岡』。
http://ii-kiji.com