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- 私福の一杯。
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異色の経歴を持つ
ラーメン職人が
鹿児島ラーメンの
王道を追求する。
鹿児島ラーメンの老舗といえば、
「のぼる屋」や「こむらさき」が思い浮かぶ。
そういえば、初めて鹿児島ラーメンを食べたのは「のぼる屋」だった。
その後、食べ歩きを続ける中で、「こむらさき」に出会い、
「ざぼんラーメン」や「くろいわ」といった王道の味を食べていくうちに、
徐々に自分の中に鹿児島ラーメンのイメージが形成されていった。
「元斗好軒」のラーメンは、
ぼくの中で育まれていった鹿児島ラーメンのイメージを、
そのままブラッシュアップした一杯と感じた。
店主の前田さんは異色の経歴の持ち主。
ラーメンの修業先は「こむらさき」ということで、
王道の味を学んで今に至っているが、それ以前は喫茶店に勤務。
ラーメンとは全く縁のない世界にいた。
ただ、それが強みになっているとぼくは思っている。
元斗好軒のラーメンにしっかりとアイデンティティを感じるからだ。
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前田さんの作るラーメンには美しさがある。
それはインスタ映えのような、
ビジュアルがキャッチーというニュアンスとは違い、
とても控えめな、静かな美しさだ。
例えば、チャーシュー。
肉そのものの味がしっかり伝わってくる厚みではあるが、
これをブロック状にカットする。
ドーンと一枚にするというアプローチもあるかもしれないが、
インパクトと引き換えに、食べやすさが損なわれてしまう。
モヤシやネギについても乱雑ではなく、
中央にふわりと盛り付けてある。
そういった心配りや丁寧な仕事が美しさを創り上げているのだ。
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国産の豚骨と鶏ガラを1:1で
合わせてとるスープは脂っ気がほぼなく、
旨味がすっきりと感じられる。
白濁はさせず、透明感を残して仕上げてあるため、
見た目にも上品な印象を受ける。
味付けの決め手となる元ダレには地元・鹿児島のやや甘めな醤油を
使っているそうで、この味わいによって鹿児島らしい味わいを生み出す。
この自慢のスープに山椒を合わせた「金色山椒らーめん」は、
清涼感溢れる山椒の風味が抜群の相性を見せる。
元々限定メニューだったが、ぼくと同じように、
この他では食べられない一杯を所望する人々の声により、
通年販売されるようになった。
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麺は創業時から一貫して、
馴染みの製麺所から仕入れた中太ストレートを用いる。
表面に張りがあり、しなやかなコシが堪能できる麺で、
滋味豊かなスープによく合う。
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前田さんの修業先である「こむらさき」の一杯は、
鹿児島のスタンダードともいうべき、昔ながらの鹿児島ラーメンだ。
その味に惚れ、時代を超えて愛されるラーメンを前田さんは目指してきた。
初めてここの「らーめん」を食べた時、
懐かしさを覚えるビジュアルにも関わらず、
なぜか「鹿児島ラーメンのネオスタンダードだ」と感じた。
どうして「ネオ(新しい)」だと思ったのかというと、
この一杯に新しい息吹を感じたからだ。
ラーメンとは畑違いの世界からやってきた前田さんが
解釈する王道ど真ん中の鹿児島ラーメン。
その世界観が痛快だった。
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「元斗好軒」は、今では鹿児島ラーメンを代表する人気店になった。
それでも、やっぱり前田さんは初めて会った時と同じように気さくで、
いつもにこやかに迎えてくれる。
変わらない人と店。
これもまた「元斗好軒」の魅力だ。
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山田祐一郎 やまだ ゆういちろう
福岡県・宗像市出身。日本で唯一(※本人調べ)の
ヌードルライターとして活躍中。実家は製麺工房で、
これまでに食した麺との縁は数知れず。
九州を中心に、各地の麺を食べ歩き原稿を執筆。
モットーは”1日1麺”。著書に『うどんのはなし 福岡』、
『ヌードルライター秘蔵の一杯 福岡』。
http://ii-kiji.com