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- 私福の一杯。
まさにロマン!
思い出の味に
自分らしさを添えた
あっさり豚骨醤油
目の前のそれは、ロマンの塊だった。
店主・大塚征輝さんの夢はラーメン店を営むこと。
そのルーツは、小学生の時代にまで遡る。
「地元においしいラーメン屋があったんです。
その味が本当に好きで、忘れられなかったんですよね」
サラリーマンとして働く日々の中で募っていったのは、
ラーメンに対する思い。
「ぼくの原点でもある地元のラーメン店は、
大人になった頃には閉店してしまっていました。
あの味を食べたいと思ってラーメン店を
いろいろと食べ歩いてみたんですが、
どこにも見当たらない。
もう食べられないと思うと、
余計に恋しくなりました。
だから自分で店を開き、
あの味を追い求めてみようと思ったんです」。
いよいよラーメン職人となり、
第二の人生を迎えようとしていた矢先、
大塚さんに奇跡が起こった。
「お世話になっている知人が、
憧れていたあのラーメン店の元店主との間をつなげてくれたんです」。
元店主も大塚さんの心意気を受け、
当時のラーメンづくりについて、
アドバイスをくれることになった。
こうして、図らずも大塚さんは思い出のラーメンに近づけることになる。
だが、最終的に完成したのは、
思い出の味をベースに、
独自にアレンジを施した一杯だった。
「師匠のラーメンの味をある程度、
再現できるようになった際に
『あとは自分の味を作っていけ』という言葉をいただいたんです。
こうして生まれたのが、
今の一杯。
師匠のおかげで自分らしいラーメンが完成しました」。
2018年11月13日、
大塚さんは満を辞して「めん屋 大征」を開業する。
「大征」のラーメンの最大の特徴は、
後味の良さを打ち出したあっさりスープだ。
豚のゲンコツをベースに、
12時間ほど炊いて素材の旨味を十二分に引き出したスープに合わせるのは、
鹿児島産をはじめとする醤油数種をブレンドして仕上げた元ダレ。
いわゆる醤油豚骨スープではあるが、
その色味は美しい乳白色で、
口に含むと、やわらかな旨味が広がる。
脂っ気は極力抑えられている印象で、
強か弱かでいえば俄然、後者。
しかしながら、その余韻は強く、記憶に残る。
「スープまで飲み干して完成だと思っています。
また食べたいという余白を残したいんです」。
基本のスープがあっさりということもあり、
大塚さんはスープにコクが出るバタートッピングを推す。
確かに、これが大正解。
バターの味わいによってスープにグンと奥行きが出た。
このバタートッピングは大人のみならず、
子供たちにも好評だ。
麺は地元の製麺所から仕入れる中細ストレート。
「地元の麺を使うことで一杯としての一体感を大切にしています」と
大塚さんは言葉に力を込めた。
チャーシューは提供スピードよりもしっとり感を重視し、
注文ごとに手切り。
細部に至るまで手を抜かないのが大塚さんの矜恃だ。
メニューは基本のラーメンを筆頭に、
名物のバターラーメン、
ピリ辛アレンジのラーメン、
ほかにも常連客にファンが多いまぜそばも取り揃えている。
鹿児島県下でも伊佐市は老舗の人気店も多いことで知られるラーメン激戦区。
その中でも、「大征」はあっさり系のラーメンを打ち出し、
独自路線を突き進んでいる。
開業からわずか2年で頑固たるポジションを獲得する
ニューカマーの今後の躍進が楽しみでならない。
山田祐一郎 やまだ ゆういちろう
福岡県・宗像市出身。日本で唯一(※本人調べ)の
ヌードルライターとして活躍中。実家は製麺工房で、
これまでに食した麺との縁は数知れず。
九州を中心に、各地の麺を食べ歩き原稿を執筆。
モットーは”1日1麺”。著書に『うどんのはなし 福岡』、
『ヌードルライター秘蔵の一杯 福岡』。
http://ii-kiji.com