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ユニークという生き方が
他にない個性を生み出す。
カルチャー× ラーメン
その化学変化が楽しい。

こんなところにラーメン店が?
初めて「Sakanoue Unique」を訪れた時、そう思った。
店は鹿児島中央駅から南下した坂之上エリアにある。
辺りは完全なる住宅街。大学も近くにある。
そうか、地域密着の昔ながらの店なのかと思えば、なんと2015年オープンというニューフェイスだったから驚いた。
周りに飲食店もないこの地域に、
あえて出店するというジャッジを下した店主のことがもっと知りたくなった。

この店には、店主・吉井さんのセンスが隅々まで息づいている。
好きなものに囲まれて仕事をしている、という表現がぴったりだ。
壁には懇意のアーティストによるポスターやグラフィックアートなどが飾られ、
丼一つとっても作家ものだ。
見方を変えればミュージアムのようにも思える空間だが、
もちろん、正真正銘のラーメン店。
鹿児島で、いや、鹿児島という枠を超えても、
今まで出会ってきたラーメン店の中でも
ずば抜けてアイデンティティを感じる。

よくよく考えてみると、このスタンスは、
屋号によって高らかに宣言されていた
ユニーク――
辞書で調べると「同じようなものがほかにあまり見られないさま。
めったにないさま。独特なさま」という意味だ。
「開業以来、鹿児島にとらわれず、ラーメンを表現してきました」
という吉井さん。
他の店がしないことをやる。
吉井さんが企画するイベント、フェスへの出店なども、この考えが土台にある。
近年では地元鹿児島のラーメンフェスに出店して3 位に輝くなど、
その実力は折り紙付きだ。

ユニークという屋号を謳うだけあり、
ラーメンのラインナップはオリジナリティに溢れている。
いわゆる鹿児島ラーメンはあえて置いていない。
メニューの軸は鶏ガラスープの「とりそば」。
そして、その他の「中華そば」や「酸辣湯麺」、
「とんこつ」などが脇を固めている。

オーダーしたのは「いいとこ鶏」(800 円)。
スープのベースは鹿児島の銘柄鶏「赤鶏さつま」の鶏ガラをじっくり炊いた出汁で、
これに枕崎の鰹節問屋「金七商店」が
クラシック音楽を聴かせながらカビつけした
本枯節「クラシック節」の削り節を合わせて完成させる。
鹿児島が誇るブランド鶏と本枯節を贅沢に掛け合わせたスープは、
旨味は力強いが、濃厚というわけではなく、
すいすいと飲めてしまう魔性の味わいだ。
白ワインを加えて味に奥行きを出した自家製の柚子ペーストが隠し味。
食べ進める中で、徐々に柚子の風味が広がっていき、最後までワクワクしながら味わえる。

思わず写真を撮りたくなるビジュアルも憎い。
ストライプの焼き目が入った分厚いチャーシュー、
薄くスライスしたレンコンのチップ、水菜、メンマといった
トッピングが丼の中を華やかに彩っている。
美しい料理は美味しいという持論が完全に当てはまる一杯だった。

奇をてらうわけでもなく、かといって直球でもない。
中身は正真正銘の本物であり、
見せ方において独自性を添える。
まさに「ユニーク」だ。
カウンター、テーブル、そして店の奥には小上がりもあり、
老若男女問わず、一人客からファミリー客まで
気軽に立ち寄れる街のラーメン店でありながら、
カルチャー発信の場でもある。
この在り方にゾクゾクする。

オシャレではあるが、芯がある。
そう感じるのは、吉井さん自身にルーツがあるからだ。
オシャレなものをただ集めているわけではない。
吉井さんと交流があるアーティスト、
作家によるモノに囲まれているので、
額縁一つとっても物語があり、
それを吉井さんは自分のことのように語れる。
これから店がどう進化していくのか楽しみでならない。

山田祐一郎 やまだ ゆういちろう

福岡県・宗像市出身。日本で唯一(※本人調べ)の
ヌードルライターとして活躍中。実家は製麺工房で、
これまでに食した麺との縁は数知れず。
九州を中心に、各地の麺を食べ歩き原稿を執筆。
モットーは”1日1麺”。著書に『うどんのはなし 福岡』、
『ヌードルライター秘蔵の一杯 福岡』。
http://ii-kiji.com